12/16/2011

市川君を待たせる

思い出シリーズ

バリ島の話題が出てこないのはしばらく勘弁していただきたい。
たぶんもうバリ島が日常化しつつあり、何か「そうだこれを書いておこう」という驚きが見当たらなくなっているのです。また、ぐるっと一周したら書き始めるかもしれないので、お待ちを。

ですのでぼくがバリ島以外のことを書いたとしても、それは明らかにバリ島に刺激を受けて考えたか、思い出したか、はたまた同じ話題でも少し感じ方が変化していると思うのでそちらでご了承いただきたい。

で、思い出シリーズ
いつかは書いておきたい、懺悔なことがある。

あれは小学校の5年生くらいのころだろうか。
ぼくには市川君という友達がいた。
どちらかというとおとなしく不器用で、いじめっこから用事をいいつけられるようなタイプだった。
性格も簡単にいうと優しくて純粋。体も大きくおっとりとしていた。

ぼくは市川君とわりと仲がよく、たま2人で遊んでいた。
とはいえいつも一緒の親友というわけではなく、なんとなく馬が合うのでそれとなくお互いの家に行き来するような感じだった。

ここから、ある日の思い出を書こうと思うのだが、実は詳細を覚えていない。
でも、あるシーンだけを強く覚えており、そこを書きたいので書いてみる。
覚えているシーンとはこうである。
ぼくが近所の広場で野球の練習をしている。1人ではなく集団に混じって練習している。
たぶん地域対抗戦のために野球チームをつくったときの練習だろう。
広場の隅っこで市川君がしゃがんでこちらを見ている。練習が終わるのを待っているのだ。
練習はゆうに2時間、3時間はやっていたと思う。
ぼくがたまに目をやると、市川君は「おーい」という感じでだるめに手をあげてくれた。
待ち疲れている風である。
なぜ市川君が待ってくれているかというと、たぶん練習のあとに遊ぶ約束をしていたからだ。

相当待たせたんだと思う。
ぼくは「なんだか悪いな」と思いながらボールを追いかけていたのを覚えている。
なんでこの記憶がいつまでも印象に残っているのだろう。
なにか「いけないこと」として印象に残っている。
待たせるべきではなかった。ということだろうか。
市川君はおっとりした奴で、あまり頭がくるくる回る奴ではなかった。
なので、ぼくが「練習終わるまで待っててね」と当然のように言えば、さして抗議もせずに待ってくれてしまう、そんな奴だった。
ぼくはそれをしたのだろう。他の友達にだったら待ってろ、とは言わなかったはずだ。
いまから練習だから、また今度ね、とか、それか練習をさぼって遊びにいっただろう。
市川君だから待たせてしまった。どうせこいつなら待ってくれる、そんな計算があった。
こいつなら待たせてもいいだろう、という上からの眼差しもあった。


唐突に言うが、市川君を待たせるような人間にはなりたくないのだった。
野球の練習がなんだというのだ。地域の子供会の野球チームがなんだというのだ。
野球大会がなんだというのだ。その大会は学区の子供達が総出で勝ち負けを競う、花形の大会だ。
親御さんもみんな見に来る。ここで活躍すればヒーローだ。ぼくは選手になれるかどうかの瀬戸際くらいにいたと思う。
でもそれがなんだというのだ。今思えば、今思ってもたしかにあの大会で活躍したかったし、補欠なんかになって声援だけの参加なんてぜったい嫌だと思っていた。恥ずかしいし、かっこわるいし、楽しくないし。

でも、おれに会いにきた市川君を待たせてまで、何にしがみついていたんだろう、などと今になれば思う。野球チームは別におれを必要としていなかった。エースでもキャプテンでもたぶんレギュラーメンバーでさえなかった。市川君はおれと遊びたかった。来てくれた。

市川君を待たせたおれは、そこまでおおげさに言う必要はないかもしれないが、何かに負けたのだ。
律儀に何時間もおれを待ってくれた市川君は、何を思っていただろうか。たぶんいい奴だから何も思ってやしないが、市川君を待たせたあのときのおれのような心が、大げさに言えば、この社会をどこか息苦しくいびつなものにしている気がしてならない。
そして市川君のような人は、ぜんぜん違ったら申し訳ない限りだが、この社会では少々生きづらく、何らかの生き方の修正を迫られ性格が変わっていってしまうか、単に隅っこで大衆に肩をこずかれるようにして生きている。(ちょっと色めがねすぎるかな。すげー活躍してる可能性だってある)

しかしあのとき市川君を待たせてしまったおれ11歳。11歳にして、しっかり世間に生きていたおれ。
願わくば、市川君を待たせない人間に成長していきたいものである。
おれを必要としない、おれも必要としない野球なんかほっといて、形ばかりのユニフォームを脱ぎ捨てて、市川君に歩み寄り、ごめんごめん、野球もういいや、チャリでどっか行こうぜ!って平気顔で言えるくらいの強さがほしいものなのだった。

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